フォルカンの行方 ~ スティロアート軽井沢オリジナル万年筆との出会い

今回は、絵を描くのに使用している万年筆のご紹介です。
以前、「新しい万年筆が欲しい気がする……」とつぶやいたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。その後しばらくして、ご縁あって素晴らしいオリジナル万年筆をお迎えすることができましたのでそのご紹介をさせてください。
いつになく長文です。万年筆の紹介だけ見たい、という方は、すぐ下にあります目次から「12 万年筆のご紹介」のみご覧いただくのがよろしいかと思います。

Mニブとフォルカン左:15号Mニブ 右:15号フォルカン どちらもパイロット社製

 

昨年、万年筆で絵を描いてみようと思い立って、かねてより気になっていたパイロットの特殊ペン先万年筆「フォルカン」を購入しました。なぜフォルカンなのかといいますと、特性上画材として有用なのでは? とふと思いついたからです。

特殊ペン先万年筆との出会い

実は特殊ペン先万年筆の購入はフォルカンが初めてではありません。まだ万年筆を使用しはじめて日が浅かったころ、セーラー万年筆の有名なオリジナルペン先「長刀研ぎ」を有する筆に魅かれて、試し書きもせず即購入。それがきっかけで特殊ペン先というメーカー独自開発の「ちょっとマニアックな万年筆」があることを知ります。不思議な書き心地に気をよくした筆者はこれに明るい色のインクを入れて、当時の日課だった資格取得勉強のノートの朱書き用として使用していました。最近活躍していませんが、今でもこの筆は普段持ち歩くペンケースの中でスタンバっています。

フォルカンに魅かれて

ふと思い立ちインターネットで調べていくと、パイロットにも特殊ペン先があることが判明。その中のひとつに「超ソフト調・毛筆の筆跡」なるものを発見。それがフォルカンでした。ネットの評判も様々で、「癖になる書き味」「扱いが難しい」など人を選ぶじゃじゃ馬のよう。カリグラフィのような文字を書いている動画も上がっていて再生回数が非常に多いことなどからますます興味をそそられます。
本当に毛筆のような感覚なのか確かめるべく、某大型文房具店に行って試筆させてもらいました。ところが、試筆用のペンを準備してくれた店員さんから「筆圧が高すぎる」旨をやんわりと告げられ唖然。毛筆のような線を書こうとするとペン先が開きすぎて傷めてしまうとのことで、正しいといわれる筆圧で試筆してみると、今まで書いたことのないほそ~い線が引けるではありませんか! 店員さんいわく「フォルカンは、ペンを持つのもやっとなぐらい筆圧が弱い人向けなので、一般的におススメしていません」とのこと。筆の自重で紙に「触れて書かせる」感覚ですね。お店を出て「なるほどあれがフォルカンか。最初イメージしていたのとだいぶ違ったけど面白いペンだったな……」と思ったこのときの記憶や先のやり取りがずっと頭の片隅にありました。

万年筆をもっと使いたい

資格取得勉強も終わって一段落つくと、万年筆に触れる機会がめっきり減ります。油性ボールペンが握れなくなるくらい万年筆に慣れてしまった筆者は、せっかくの相棒たちが眠ったままなのはもったいない、何か活用できないかと考え始め、すぐに思い立ったのが絵を描くことでした。このころすでにいわゆる「インク沼」にも片足を突っ込んでいたのでボトルインクはある程度の数が手元にあり、「これだけインクがあるならばこれらを使った絵でインクの筆記サンプルみたいなものを作って、インターネットで紹介することはできないか」というアイディアが浮かんだのです。無い知恵を絞って「水性インクを使うんだったら用紙は水彩画用のがいいんじゃないか。画材屋さん行ってみるか」「ブログの作り方は調べればなんとか形になるか」と頭に浮かんだ思いつきを一つずつ組み合わせていき、万年筆は何を使うかとなったとき、「フォルカンだと万年筆でも繊細な表現が描けるんじゃないか」「いい機会なのでフォルカンを迎え入れよう」となり、購入にいたりました。フォルカンのペン先を有する筆はいくつかありますが、以前より使用していて使い慣れていたことから、他には目もくれず「カスタム743」を選択しました。
そして、適当に目に入ったインクを入れて試し書きをほんの少しした後、人生で初めて万年筆で絵を描いたのがこの記事となるわけです。

なんだかんだ描き続けている

当時の記事にもあるとおり、筆者は美術関係の知識を持ちあわせていません。美術学校で専門的に学んだこともありませんし、絵を描くことに関してもこのブログを立ち上げるまではまるで縁がなく、描き方もさっぱりなので誰かの真似をしてみたり適当に形にしてみたり、この世に「ペン画」なるものが存在することを知ったのが結構最近だったりと、「ド」が付く素人です。
それでもこの自己満足ブログが(気まぐれ更新ではありますが)1年近く続いているのは、星の数ほどあるインクとの出会いと、単純に万年筆を持つことが楽しいからです。特に画材にフォルカンを選んだのは大きかったなと思います。繊細なペン先のため微妙な筆圧の加減がインクフローにダイレクトに反映される、つまり線幅がブレやすい一方で、通常のペン先では難しい細やかな表現が可能であるという当初の適当な目論見が正しかったのが嬉しいのです。使いこなせているかははなはだ疑問ではありますが……

新しい万年筆が欲しい

2018年になってすぐのこと。とあるお店でセーラー万年筆の「長刀コンコルド」というペン先を付けた万年筆を試筆させてもらうことができました。「コンコルド」の存在は知っていましたが実物を握るのは初めてでした。ペン先をひっくり返して書くと通常ではありえないベタ塗りのような極太の線が引けます。「これで絵を描いてみても面白いかも」と直感しながらも購入を思いとどまり、お店を後にしました。このころから、なんとなくですが新しい万年筆が欲しいと頭の片隅で思うようになり、実にくだらない葛藤が生まれます。
フォルカンに飽きたわけではなくむしろ使い続けていきたいと思う一方、別の万年筆も手にしたいという欲望がつきまとうのです。筆者はいわゆる万年筆コレクターではなく、あくまで道具として万年筆をアクティブに使用したい人間なので、せっかく入手しても使われず部屋のどこかで眠っているというような状況になると切ないなと思ってしまい、ペン種を増やすことを躊躇します。だがしかし、万年筆というものは本当に所有欲をそそられます。ふとした瞬間、お店のショーケースの中で目が合ってしまう筆があったりするのです。魅了させられ恍惚状態とならないよう気を引き締める必要があります。

展示即売会「したためる展」へ

そんなモヤモヤとした日々を送っていると、ツイッターに魅惑的な木軸万年筆の写真とともに「スティロアート軽井沢様が店頭にやってきます!」とのツイートを発見。場所は代官山の蔦屋書店様。なんと翌日から二日間開催をひかえているとのこと。
実はこの展示即売会「したためる展」、筆者は前回同じ代官山蔦屋書店様で開催されたときもお邪魔していて、その当時は「文具フロアに人だかりが!」「なるほど好きな軸に好きなペン先をつけてもらえるんだ」「うわ~すっげ~かっこい~。欲しいけどちょっとこれは持て余しちゃうな……」と展示物をサラッと見て割とあっさり踵を返した経緯があります。
しかし今回はひらめいてしまったのです。「今使っているフォルカンのペン先をオリジナル万年筆につけてもらえないかな」と。もしそれが可能で、気に入った筆がそこにあるならば、「新しい万年筆が欲しい。でも万年筆を増やしたくない」というジレンマを解消できる。良い着地点だ、と。
そんなわけで、東京代官山まで足を運ぶことにしたのでした。

会場:代官山蔦屋書店会場となった代官山蔦屋書店3号館

出会い

開催直後に訪れたのにすでにお客さんでいっぱいの展示場。さっそく物色開始です。
オイル仕上げのナチュラルな木軸万年筆が所狭しと並んでいるほかに、ツルツルテラテラで艶っぽい漆塗り、赤や緑など鮮やかな色をしたインク染めの作品がありました。また、数は少ないですが回転式ボールペン(カランダッシュ「ゴリアット」リフィル)、シャープペンシル(ぺんてる「グラフギア」0.7mm)、芯ホルダーの木軸作品も並んでいました。
前回訪れたときは気が付かなかったのですが、パイロットのノック式万年筆「キャップレス」についても木軸のオリジナル作品を作られていることに驚嘆しました。しかもかなりの種類があり、実物を手に取っていらっしゃる方も多く人気があるようです。キャップレスの内部構造は複雑で、それに合う胴軸を手作業で作らなければならないということですので、相当な技量をお持ちなのだろうなと素人目にも分かります。そうこうしているうちに隣にいた方はキャップレスをEFニブでお買い上げ。……ああ、欲しくなってくるじゃないか……
されども心は決まっていて、いわゆる「シガーモデル」「シガータイプ」などと呼ばれる形状に近いものでオイル仕上げ、木目の濃淡がはっきりと判別でき明るい地色の軸を探します。そこでふと目にとまったものが「アガツマ15 杉 金襴杢」です。

アガツマ15 杉金襴杢アガツマ15 杉 金襴杢 made in スティロアート

その大きさに似合わず実物は意外にも軽く、フォルカンとも相性がよさそう。よし! これにしよう!
そしてお店の方に今自分の使用しているペン先をつけてもらうことは可能かおたずねしたところ、「ああできるよー! パイロットはね、割と簡単なんだ。ちょっとコツがいるんだけどね。やってみなよ教えてあげるから!」とのお返事をいただきました。あれ? やってくれるんじゃないんだ、とペン先を首軸から取り外すことはこれまで一度も経験がない筆者は一瞬戸惑いながらも、ご教示いただけるとのことなのでそのままお買い上げ。スティロアート軽井沢の木工職人、数野元志氏直々にニブ交換のレクチャーを受けます。

職人・数野元志氏

「いいのを選んだね~。匂いかいでみた?」と検品しながら話す数野氏。筆に鼻を近づけると杉の良い香りがします。「ほらこれ、油がすごいでしょ? こういうのあまり無いんだよね~。杉のお風呂入ってるみたいでしょ(笑) 匂いはこのまま消えずにずーっと残ってるから!」とのこと。氏のフランクなトークにどんどんのせられます。
そしていよいよニブ交換。自分のカスタム743フォルカンを手渡して、まずは氏のお手本から。
「こうやって脇をぎゅっとしめて両手に力をぎゅっと入れて引っ張ると……」スポッと抜けました。「ほら、抜けた芯の根元に小さい樹脂のリングがついてるでしょ? パイロットのペンにはこれがついてるんだよ。これがないとペン先がスッカスカになって抜けちゃうから必ずつけてね。ウチで扱ってるのはこれがなくてもちゃんとハマるから、逆につけちゃダメ」という白く小さなパーツを見せてくれます。「大抵の場合はペン先を抜いても、リングは軸の中に入ったままのことが多いんだけど」。知らなかった……以前ペン先の交換を自分でやってみようと思ったこともありましたが、怖くてやらずにいて正解でした。このパーツが付いたまま別の首軸に差し込むと、同じ種類の軸でも中途半端な刺さり方をしてしまい、そのままキャップを閉めるとペン先とキャップの内壁が干渉してペン先を壊してしまうことがあるそうです。
「で、ここに小さな文字みたいのがあるでしょ? これが目安」と氏の指さす14金フォルカンニブの根元付近には、確かに刻印があります。しかし小さすぎてなんと彫られているのか読み取れず。「これが見えるか見えないかのところまで差し込めばOK」「ま、だいたい差し込めるところまで差し込めば大丈夫なはずだから」という。これからフォルカンをもとに戻す作業です。
「パイロットの場合は、芯とペン先を合わせるとぴったりハマってズレなくなるところがあるから、それを探す」「ハマったらホラ、もう動かないでしょ? そうしたら裏を見る。芯の中心とペン先の切り欠きが合ってるのを確認して。ここで二つがズレてるままだと変なふうに刺さっちゃうからね。必ず確認する!」という氏は寄り目になってペン先をじっと凝視。「OKならこうやって摘まんで抑えれば……ぴっちり、動かないでしょ? あとはこのままさっき言った目印まで差し込む」「そして、もう一度裏を見て、中心が曲がってないか確認する」「……よし、じゃあ書いてみて」と見事完全復旧のフォルカンを手渡されます。当然ながら、試筆は問題なし。

初めてのニブ交換

「じゃあ、はい、いきなり本番ね! 最終試験(笑)」とペン先を洗われたフォルカンを手渡されます。今度は自分の番です。
氏のおっしゃる「脇をしめて~~」のくだりはなんとなく理解できました。ペン先と首軸をしっかりと両手で持った状態で両肘を脇腹にくっつけて、肘を起点にして腕を「てこ」の原理で左右に開くように力をこめると、スポッと抜けます。すると先ほど見せていただいた小さな樹脂のリングはついてきませんでした。「ね。この状態が普通なの」ということらしいです。
そして、アガツマの首軸に差し込むのですが、万年筆を使用する際は握る位置が常に固定されるわけですから、事前にペン先の表側に杉の綺麗な年輪やコブが来るように胴軸の模様を見定めておきます。ペン先の切り欠きとペン芯は、既定の位置にぴったりハマるとほぼ中心が合ってくれるようです。差し込むこと自体は簡単。力をこめて差し込むと、氏の説明の通り根元の刻印が半分くらい首軸に隠れたあたりでペン先が自然に留まりました。
「よし、じゃあ見せて」と完成品を氏がチェックします。拡大鏡などの類は使用せず目視で確認。どうやらOKの模様。「ちょっと書いてみて。大丈夫そう?」と試筆してみると、試筆用の青いインクがスッと引けて一安心。生まれて初めてのニブ交換はうまくいったようです。
「ペン先を洗うときもここまでするのが一番綺麗になるから。今度からもう自分でできるでしょ?(笑) たまにやったげて」

スムージング

今まで使用してきたカスタム743の軸に、本来アガツマに組み合わされるはずだったペン先を先ほどの要領で取り付けます。
その後に氏は「ちょっと見せて」とグレードアップしたばかりのフォルカンを手に取り試し書き。軽く首を傾げて「ん~、ちょっと調整してあげる」と、机の脇にあった小さなペーパー(紙やすり)を取り出しました。「これは3000番と5000番ってヤツね。ホームセンターでは売ってなくて、東急ハンズにはある」という非常に目の細かいものです。紙やすりなんて見たの小学校の図工の時間以来じゃないかな、などと思っていたら調整が始まりました。
まずは3000番から「こうやってペン先を水平にして、上下……」シュッシュっと軽いタッチで研いでいきます。続いて左右に動かした後、「あとは8の字……」とぐるぐると廻すようにして滑らせます。そして、「終わったら次は5000番」と先ほどと同様に繰り返します。「これは『スムージング』ってやつね。これも誰でもできるから」と作業をしながら話す氏。「慣れてきたらこうやって……」とペン先を少し左右に傾けて研ぎます。あれ? 水平に固定してやるだけじゃないんだ、と疑問に思いながらもわずか1分少々の作業を見届けます。
「よし、これで書いてみて。良くなった?」と手渡されたフォルカン。はたしてどの程度の変化があったのかというと、正直なところその時の試筆ではあまり変化を感じられませんでした。「試筆するときはね、必ず漢字を書かないとダメだよ」といわれ、適当な漢字を書いてみるもいまいちよくわかりません。なんとなくインクフローが良いかな、と感じる程度です。考えてみればこれは当然で、このフォルカンを購入して今までしてきたことは絵を描くことが中心で、文字を書くことはほぼ無しに等しいのだから比較しようがないじゃないか、とこの時はそう思いました。しかし、後日このアガツマで絵を描いてみると、同じペン先でもまるで別物のような書き心地に変化していたことが判明するのです……

フォルカン in アガツマアガツマ15に組み込まれたフォルカンのペン先。数野氏による調整済み

スムージングの作業を実際に見てとりあえず分かったことは、難しそうだ、ということです。それは描きやすい万年筆とはどういうものかということを知っていて、今現在のペン先の状態はどんなもので、それをどの程度研げばよいのか、ということが経験則として身についていないとできない所業だなと感じたからです。いわゆる「職人技」のひとつですね。誰でもできるといわれても、そこはやはりそれなりのスキルがないとうかつに手を出せないのでは、と思うのです。
とはいえ、このスムージングという作業はどの程度の頻度で行えばよいのかおたずねすると、「あなたは筆圧が強いほう?」と逆にたずねられました。いわく「筆圧が弱い人は全然しなくてOK。私が使ってるのもしてないよ」「逆に筆圧が高くてペン先が開いちゃうような人だったら時々したほうがいい」とのこと。筆者は特にフォルカンに関しては非常に微力で繊細に扱うため、基本的にしなくても大丈夫かな、と思い少し安堵してしまいました。
ちなみにスティロアート様で製作される万年筆はすべてこの調整がなされているとのことなので、どなたでも安心して使用できるでしょう。

お世話になりました

レクチャーはこれにて終了。最後に個人名入りの保証書を作ってもらい、完了となります。
「ほかの万年筆屋は、こんなペン先の交換とか教えないからね! ウチならではだから!」と笑いながら話す氏。確かにその通りです。こんな経験なかなかできませんよね。数野氏との対面はほんのわずかな時間でしたが、まだまだ万年筆初心者の自分にとって、思いがけない貴重な時間となったことは確実です。ありがとうございました。
また、定期的にこの展示会を開催してくださる代官山蔦屋書店様にも感謝申し上げます。

スティロアート軽井沢

代官山 蔦屋書店 (代官山 T-SITE)

素晴らしい出会いのもと美しく生まれ変わったフォルカン。持っているだけで言いようのない嬉しさがこみ上がります。大事に使わせていただきますね。来てよかったな~。

万年筆のご紹介

さて、ここからしばらくは木製手作り万年筆アガツマのご紹介となります。
まずはプロフィールから。

アガツマ15アガツマ15 杉 金襴杢
ペン種:パイロット 15号 フォルカン
製作:スティロアート軽井沢
全長:約150mm
キャップの長さ:約62mm
胴軸の長さ:約140mm (ペン先を含む)
最大軸径:約16.5mm
重さ:約28g (コンバーターを含む)

凹凸がなく、シンプルなストレートのラインです。キャップオンできるようになっていますが、よほど軸の後ろのほうを持つ場合でない限り、キャップを外した状態のほうが書く際のバランスが良いです。
今まで使用してきたいわゆるバランス型のカスタム743に比べて軸径が太くなりましたが、カスタム743の重量が25g程度ですので、見た目ほど重くなった実感はありません。絵を描く際はキャップを外していますので、その分実際にはむしろ軽くなったといえます。

はみ出るアガツマペンシースからはみ出るアガツマ。テッペンもステキ。隣に収まっているのはカスタム743

地色は薄茶色で、ところどころ濃い茶色の木目があります。木目の紋様のうち特に複雑で装飾性が高いものを「杢(もく)」または「杢目(もくめ)」と呼ぶそうです。どんな杢目なのかは木材を削り出してみるまでわからず千差万別。日本では割とメジャーな木である杉でも「金襴杢(きんらんもく)」と呼ばれるものになると希少価値がぐんと上がるそうで、天然の油分が多く含まれていて艶やかな風合いになります。この軸は、その貴重な金襴杢を加工した逸品です。
また、杉特有のさわやかな香りが含まれ、オイル仕上げで磨き上げられた今も「癒し成分」を放出しています。ペンケースから取り出すとふわっと杉の良い香りが……これも無垢材を生かして作られた万年筆ならではですね。
杉の花粉は厄介ですけれど、杉自体に罪はありません。こんな形で杉と触れ合うことができるのも、自然の神秘とそれに対峙する職人様のおかげですね。

境目段差のないフラットな境目。ぴっちり閉じていて美しい

首軸はパイロットの15号ペン先に対応する樹脂製のスティロアート様オリジナルのものを使用しています。カスタム742などに使われる一回り小さい10号ペン先のものもあり、そちらの万年筆は首軸もパイロット純正のものを取り付けられているのだそうです。さらに首軸自体も追加オーダーにより木製にすることができるようで、そうすることでより筆の統一感が増します。ただ、首軸はボトルインクを吸入する際にインクが振れやすい箇所ですので汚れてしまいがちです。インクの染みた首軸もそれはそれで味があってよいのですが、気になる方はカートリッジ式のインクを使用するほうがよいでしょう。
ちなみにスティロアート様は、パイロットのペン先のほかにプラチナ万年筆、セーラー万年筆のペン先に対応する作品も制作されています。

軸の杢目世界で二つとないマーブル模様。見ていて飽きません。内蔵のコンバーターは大容量のcon-70

さて、肝心の書き味のお話です。
このブログをご覧の方はご存知の通り、万年筆は絵を描くことに使用しています。今回ご紹介するのはその際の感想が中心となりますのでご了承ください。
展示会で試筆した際はあまりペン先の変化を実感できなかったのですが、このアガツマを使っていつもの調子で絵を描いてみると同じペン先とは思えないほど描き心地が異なっていました。
約1年ほどフォルカンを使用してきた筆者の以前の感覚としては、ペンポイントが尖っているため、まるで針の先端で紙を引っかいているようなカリカリとした独特のタッチでした。これが「フォルカンは人を選ぶ」所以なのだと思います。しかし、スティロアートの数野氏にスムージングを施されたこのアガツマのペン先は、Fニブで書いているのとそれほど変わらないほど「カリカリ感」が軽減されているのです。まさに「スムーズ」な描き心地。
さらに大きな違いは、インクフローが非常に潤沢になっていることです。これは一度ペン先とペン芯を取り外して洗浄された影響なのか、それともスティロアート様独自の首軸の特性なのか定かではありませんが、インクをコンバーターで吸わせると、ペン先とペン芯のわずかな隙間にとにかく大量のインクがたっぷりと保持された状態になるのです。ちょっと紙に乗せるとインクがスルスルと流れ出てきます。長時間描き続けても、コンバーターにインクが残っている限りその状態は変わりませんでした。察するにこれもペン先の滑らかさにひと役買っているものと思われます。

フォルカンinアガツマ長いお付き合いとなりそうですね、アガツマさん

絵を描く際に最近使用している用紙は「ファブリアーノ クラシコ」の細目という画用紙で、一般的な紙面と比べると表面がざらついているのですが、その用紙でもこれだけ変化を感じ取れるのならば「万年筆用」などとうたわれているような滑らかな紙に書いてみると果たしてどんな感覚なのか、気になってしまいます。
これがスムージングの効果なのか……おそるべしアガツマ。あっぱれ数野氏。

特性の変化

よく「スルスル」とか「ヌルヌル」といった表現で筆の書きやすさを形容しますよね。「超ソフト調」の特殊ペン先フォルカンも、「調整」されて滑らかな描き心地に進化しました。筆記具として、より使いやすいものになったといえるでしょう。
しかし実は、懸念していたこともありました。それは進化したことにより今までの描き方が通用しなくなる、いわばかえって使いづらくなってしまうのではないか、ということです。もちろん筆の特性に合わせて描けるようになるのがよいのでしょうが、少なくとも筆者の場合、滑らかに書けること・インクフローが良いことだけが優れた筆の要素とはなりません。
先にも書きましたが、今までのフォルカンだとペンポイントがカリカリと引っかかるようなタッチでした。しかしそれを逆に利用して紙面をこするように筆を動かし、通常のペン種では描けないような糸よりも細い「超」極細の線を描いていたのです。おそらくこれはフォルカン特有で、紙面とペンポイントの接触する面積が極めて小さいため、結果的に流れ出るインクの量が制限されたため可能であった小技で、絵を描き続けるうちに自然と身についたものです。ところがペンポイントを「調整」することにより尖った部分がなめされ接触面積が大きくなると、当然引っかかるような感覚はなくなりインクの流れる量は増大するため、線が太くなってしまいます。この記事を書いている時点でアガツマを使って絵を描いたのはまだ2作品だけですが、それ以前のような描き方はなかなかできなくなっていました。万年筆で繊細な絵を製作することをひとつの課題としていたなか、極細の線が描きづらくなったのは表現の幅が狭まったのと同義であり、それは滑らかさと引き換えに、今までのフォルカンらしさを失ってしまったからではないか……

新旧フォルカンツーショット。手前の旧フォルカンであるカスタム743には新たにMニブを組み込みました

ペン先を「調整」すること

言わずもがな、書いている最中にインク切れを起こして書けなくなってしまったり、おかしな形状のペンポイントで線がガタガタになったりするようなものは劣悪と言わざるを得ません。また、インクフローが渋くて書きづらい、滑らかに筆を運べないなどと感じて、それが筆自身に問題があり、手を加えれば解決可能であるというのならばそれでよいと思います。扱いづらいなと感じながらもそのままにしておくのは良しとしません。
それでも、書きやすい(描きやすい)・書きづらい(描きづらい)というのは、人それぞれ固有の問題なんですよね。
今回「したためる展」で数野氏にフォルカンを「調整」していただいたわけですが、それは氏自身の判断基準で良しとするペン先に仕立て上げていただいた、ということになるのでしょう。けれども、もしそこで筆者自身から「フォルカンで絵を描いているんです」といった用途や、「今のままでも問題ないですよ」という感想を事前にお伝えしていたとしたら、氏の見解はまた違ったものになったのかな、と思います。
そういった意味でも、ペン先を下手にいじくることはできません。また、本当に「調整」が必要なのか、本当に筆自身の問題なのかも見極めなければいけませんね。

それぞれの門出

そんなわけで、万年筆の造詣をほんの少し深めながら、この素晴らしい新生のフォルカンとともに引き続きいろんなインクを試してご紹介していきたいと思う所存です。新しい万年筆を手に入れると作業のモチベーションが上がりますね。
今まで使ってきたカスタム743は、スティロアート様調整済みのMニブに付け替えています。この子はどなたかに引き取ってもらおうかな……

総出。自前の万年筆そろい踏み。一番奥はセーラーの長刀研ぎMFニブで、現在インクを抜いて休眠中

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。




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