細美研ぎの行方 ~ フォルカンと細美研ぎ

まずはこちらの絵をご覧ください……

アガツマFA 細美研ぎ 京の音 濡羽色

このオオカミさんの絵、違和感を感じませんでしょうか? オオカミに見えない? タヌキじゃないの?……オオカミということにしておいてください。
実は、絵の右半分がセーラーの特殊ペン先「細美研ぎ」、左半分がパイロットの特殊ペン先「フォルカン」で描いてみたのです。
どちらのペン先も大型でほぼ同じ大きさ。また、どちらも同じインクを使用しています。インクの色味についてご興味のある方は別記事をご覧ください。

今回ご紹介するのは、セーラーの万年筆「細美研ぎ」です。

偶然の出会い

しかも大型21金、プロフィット形の初期型細美研ぎ万年筆です。限定生産品(最初期の250本限定品ではありません)でした。現在(2018年4月)は製作受注を中止しており、6月から再開予定ということのようです。メーカーに確認したところ、受注生産が再開されても、今のところプロフィット21の細美研ぎは製造予定がないとのこと。本当に手に入れられてよかった……
いわゆる「バランス形」の万年筆が好きなので、プロフィット21の細美研ぎが存在することを知ったときは心躍りました。筆者は絵を書く筆は太めの軸を好んで使用しますが、文字を書く普段使いの万年筆は標準的な大きさのバランス形に近いものを選んでいるのです。ただ、このペン先は生産が中止されている古い筆ですので、さすがにもう店頭に並んではいないだろうとあきらめていたところだったのです。
ところが、とあるお店を訪れた際にそれが陳列されているのを偶然発見。即試筆させていただいたところ筆記に問題なし。とくれば、次はどうするか、もう答えは決まってしまいます……いや~、良い買い物をしました。

セーラー細美研ぎよくぞ待っていてくれました!

細美研ぎに関してはもともと興味があって、いつか手に入れようと思っていたのですが、パールレッドのプロギアスリムという点がどうも心に引っかかって購入を先延ばしにしていました。今回は、プロギアスリムで妥協しなかったことが「運命的な出会い」につながったのでしょう。そう信じたいものです。

フォルカンとの違いは?

なにはともあれ、早速愛用しているパイロットのフォルカンと比較してみました。

ペン先比較左:セーラー細美研ぎ大型 右:パイロットフォルカン15号 両者ほぼ同じ大きさ

細美研ぎは、どんな方向に筆を動かしても一定幅の極細の線をどこまでも引ける万年筆です。
パイロットのフォルカンは、いわゆる「フレックスニブ」とまではいかないまでも弾力のあるペン先で、極細から太めの線まで書けますが字幅が安定しないイメージ。ただし、あまり強い筆圧で書き続けるとペン先が壊れてしまうので、基本的には極細の字幅だと意識して使用しています。
どちらがより細い線を引けるかと言えば、筆者の場合はほぼ同じくらい。ただ、細美研ぎは、極細の線を書くことに特化した筆です。書き方さえ覚えて慣れてしまえば、何をどうしても極細の線が引けてしまう。
そしてその細さについても尋常じゃないです。極細のボールペンも目じゃないくらい微細な線が引けます。万年筆で描く線ってここまで細くできるんですね。

細美研ぎは線幅が一定で書ける半面、ベタ塗りをするには不向きです。フォルカンに比較して細美研ぎはペン先が固いのです。ですので切り欠きを開くことが容易ではありません。あくまで文字幅は超極細一点のみ。その点、ペン先の切り欠きをある程度開けるフォルカンは楽です。

書き心地の違い

どちらも筆本体の重量のみで筆記できます。筆圧は最低限で十分です。ただし、書き心地はまったく異なります。
フォルカンのほうがスムーズな筆運びができます。
細美研ぎは「極細の線を滑らかに書く」という筆ではないです。筆記性を犠牲にしてでも、とにかく簡単に超極細の線を引くための万年筆、という感じでしょうか。
上記の画像の絵は、まずは右半分の細美研ぎのほうから描き始めましたが、細美研ぎを使用した後に左半分をフォルカンで描くと、紙面にこすれるペン先がとんでもなくヌルヌルな感じで驚きます。それだけ細美研ぎはカリカリの書き味ということです。
細美研ぎは一本の針の先でこする感じ。フォルカンはというと削って尖らせた鉛筆の先端でこする感じ。一見どちらも尖っているのですが、書き出してみるとペン先の滑り方に違いがある、そんな感覚です。
これだけ紙に引っかかる万年筆って他にあるのでしょうか? 普段からフォルカンを使用していてこうですから、普通の万年筆に慣れていると違和感がすごいことでしょう。されども字幅の細さと滑らかな書き心地はトレードオフ。致し方ないことなのです。

大きなペンポイント

針でこする感じの書き心地、と申し上げました。しかしこの細美研ぎ、不思議なのはペンポイント付近を肉眼で見てみても、確かに小さく細いのですが、それほど特別尖っているようには見えないんですね。線の細さから言えばむしろ太く見えるくらいで、描いている最中にペン先が邪魔に思えてくるくらいです。

細美研ぎペン先写真はちょっとピンボケしていますが、結構大きく見えますよね?

さて、そこにどんな秘密があるのか、ペン先を拡大してみましょう。

まずは表の刻印がある面から。

刻印面
この面から観察すると、フォルカンのほうが先細りしているように見えます。細美研ぎは地金からして大きいですね。切り欠きも細美研ぎのほうが広いです。
先端を指で軽くツンツンしてみても、「刺さる」感覚があるのはフォルカンのほう。

次に、裏返して紙と当たる接触面です。

接触面

こちらからみると、両方ともに切り欠きが閉じているのが判ります。切り欠き一つでも本当に微妙な調整を要するのでしょうね。そしてペンポイントは、両者明らかに形状が異なります。細美研ぎは横幅が大きいものの、紙との接触部分が先端に向かって細長く削り取られています。鋭利な刃物のような、さながら新幹線や戦闘機の先頭部分のような直線的な研がれ方です。ここがまさにポイントのようですね。対してフォルカンは、接触部分を極力小さくしてあるものの、全体的にある程度丸みを持たせてある印象です。

横からも見てみましょう。

横面
細美研ぎのペンポイントは、通常の万年筆のペンポイントを表裏ひっくり返したような何とも不思議な形状をして付いています。地金も比較的厚め。
フォルカンに関しては至ってシンプルで、普遍的なデザインです。

そして最後に、横面と接触面が両方見える角度で撮った図です。

斜め
何気なく撮ってみたのですが、それぞれの特徴をよく捉えていたので掲載してみました。
……何だかペンポイントの色つやが全然違いますね。パイロットのペンポイントはイリドスミン合金のはずですが、細美研ぎは何か異なるのでしょうか。それとも磨き方の違いでしょうかね。
カリカリの書き味といわれるフォルカンでも、細美研ぎのこの角ばったペンポイントと比較してしまうと随分滑らかに書けそうに見えます。そして、実際に滑らかなのです。ペンポイントそれ自体が大きくても、刀の切っ先のごとく研いであるのであれば微細な線を引くことができる、ということのようです。
文言にするのは簡単ですが、両者とも多大なる研究の結晶として生まれたことは想像に難くありません。

画材としての細美研ぎ

最上段の絵を実際に描いてみてのお話。
美術ど素人の評価で恐縮ですが、細美研ぎはふわふわで柔らかそうな滑らかな毛並みに。対してフォルカンは、細い毛も太い毛も入り混じった、少しゴワゴワした手触りのワイルドさが表現された気がしています。
こうしてみると確かにフォルカンはメーカーがうたわれているように「毛筆調」の線に見えます。細美研ぎはとにかく極限まで細く華奢な印象です。どちらも自然でよい感じだと思います。あとは好みの問題ですね。
画材として使用する細美研ぎとフォルカンは、対象となる題材によって使い分けるのが最良かと思われます。少なくとも筆者は、一つの絵に対して、筆自体を何種類も使い分けることはしたくない(要は面倒くさい)ので、絵の仕上がりのイメージに合う筆は何かあらかじめ考えてチョイスする、という使い方になりそうです。

フォルカンとのツーショットフォルカンとのツーショット

クリーニング

細美研ぎの万年筆には、ペン先専用のクリーナーが付属しています。

クリーニングツール専用のクリーニングツール。非売品ということで失くさないようにしないと……

あまりに繊細なペンポイントに、紙の繊維やホコリなどが挟まってしまうことがあり、そうなると書き心地が悪くなってしまうのだそう。そこで、定期的にペン先の切り欠きを清掃するためのクリーナー、というわけです。
紙の繊維の挟まり具合について、今回は一度もクリーナーを使用することなく描き切りました。筆記の感覚に特段変化を覚えなかったためですが、どの程度の頻度でするのがよいものなのでしょうか。それとも、書き心地が悪くなったらする程度でよいのでしょうか。この点は、使い込んでいくと判るはずですね。

どちらも繊細

おそらく紙面との接触が最先端で最小となるように設計された細美研ぎ。筆者が心配することではないのかもしれませんが、ペンポイントの摩耗の進行具合はどうなのでしょうか。
いくら硬質のイリドスミン製といえど、擦れれば磨耗していくはずです。そうなると、磨耗するに比例して線の幅も太くなっていくのでしょうか。一般的な万年筆と比べ、針状のペンポイントに筆圧が集中すると考えると、比較的早く削れていくような気がします。これも、今後確認が必要です。描き慣れてきたな~と感じていたら、実はペンポイントが磨耗していて丸くなっていただけだった、なんてことにならないよう……

細美研ぎを使用してみて、逆にフォルカンについても本当に繊細な筆なんだなと再認識しました。以前の記事にも少し書きましたが、フォルカンは筆圧がほとんど無い方向けの特殊な万年筆だといわれたことを思い出しました。力がダイレクトに伝わりやすいので、扱いが難しい筆なのだと感じます。
そして、おそらくこの細美研ぎも、フォルカンと同じく調整と称してペン先をおいそれといじってしまってはいけない代物でしょう。

さぁどうする?

ところで、こうなってくるとプラチナや中屋万年筆のUEF(超極細)はどんなものなのか、興味が湧かずにはいられません。特に、中屋万年筆では「軟ペン加工」も可能なところが惹かれます。「超極細軟」とはいったいどういったものなのか。画材として有用なのか。見た目からして、フォルカンに似た特性でしょうかね。超極細軟の万年筆を試筆させていただける場所はあるのでしょうか……
「そんなに極細字の万年筆ばかり集めてどうするんだ」という疑問が己の中で消えませんが、それはそれ、これはこれ。物欲は留まることを知らないのです。
とはいえ、いつか「運命的な出会い」があるかもしれませんので、そのときの自分に任せることにします。
とりあえず今は、細美研ぎの描き心地に慣れることを優先しましょう。

よろしくお願いします

そして、絵に使用するからには、スティロアート軽井沢様のオリジナル軸に細美研ぎのペン先をつけたい。せっかくなので、フォルカンのアガツマとお揃いにしたい。そんな欲望が渦巻いております。

ペンシースで眠る一緒のペンシースで眠ります。相変わらず頭がはみ出ているアガツマさん。

北軽井沢の現地の工場をお邪魔するにはちょっと遠すぎるので、今フォルカンが組み込まれているアガツマを手に入れたときのように、ワークショップなどで出張された際にまたお訪ねしてみようと思っています。

さてさて、使いこなして見せますよ、細美研ぎさん。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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